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2017年02月22日

世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド(上巻・下巻)(村上春樹/新潮社) 〜作品概要と感想



・幻想世界とリアルな冒険が交互に描かれる不思議な小説

・物理的なアクションシーン、精神的な「消失」が「怖い」点

・村上春樹節全開。「やれやれ」「勃起」などに反応できる方であれば必読

おススメ度:★★★☆☆


今週(2017年2月24日)に、最新刊「騎士団長殺し :第1部 顕れるイデア編」が発売される村上春樹氏の作品。私はハルキスト(Wiki)ではなく、「ノルウェイの森」など著名作は読んでいるが、全ての著書には詳しくない。今回の「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」を読んでみたきっかけは、単に「面白い小説」として紹介されていただけのことで、深い理由はない。今回は「怖いかどうか」というこのブログの趣旨に沿って紹介したい。

作品の概要としては、一角獣が住むような壁に囲まれたファンタジックな閉鎖的な世界で、不思議な「夢読み」を生業とする〈僕〉が主人公の「世界の終わり」と、実際に東京の地名などが出てくる現代で「計算士」という架空の職業に就く〈私〉が遭遇する受難と冒険と描く「ハードボイルド・ワンダーランド」が交互に描かれる。

「世界の終わり」は、アクションシーンなどは殆どないが、幻想的というより冷たい雰囲気で、そこが何かが明かされる後半までは非常に居心地の悪い世界だ。細かな禁忌がいくつも設定されていて、不気味な描写も所々に出てくる。「ハードボイルド・ワンダーランド」は、現代を舞台にしているがSF的な世界観で謎の職業「計算士」として働く主人公が、敵対組織に襲われたり、謎の博士に呼ばれたり、不気味な「やみくろ」と出会ったりする話で、こちらはエンターテイメント寄りで読みやすい。

一度でも著者の作品を読まれたことがあるなら感じられる個性は他の作品と同様で、凝った作品のディティールやテーマの難解性などの独特な雰囲気、突然挟まれる「痛い」描写はいつもと同じだ。おなじみのセリフ「やれやれ」や女の子に「勃起」するシーンも登場するので、思わずニヤリとした。ファンタジックでありながら且つリアルである、というのは、中々すごいことだと思う。

怖がらせることを目的としているわけではないが、物理的・精神的な恐怖感を感じるシーンは多々ある。「ハード...」では、不気味な敵に襲われるし「痛み」を感じるシーンも多い。精神的な部分でいえば、恐らくこの小説は「自我の幸福な消失」がテーマになっていると思われるが、よくよく考えてみるとゾッとするような結末だと思う。

読み終わった後、スッキリするようなしないような、納得できるようなできないような、そんなイメージの作品だ。情報量が多いので、読み込めば様々な発見があると思う。「怖いお話」という意味では積極的にオススメしないが、この不思議な世界は魅力的だと思う。「騎士団長殺し」もぜひ読んでみたいと思う。














posted by 北川商店 at 08:51| ★★★☆☆ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年02月21日

狐火の家 (貴志祐介/角川文庫) 〜簡単なあらすじの紹介と感想



・作者の前作「硝子のハンマー」に続く短編集

・前作を読んでいることが前提なので注意。

・作者の持ち味と作品のテーマがずれている気がする

おススメ度:★★☆☆☆

前作・密室の謎を解く正統派ミステリー「硝子のハンマー」で活躍した弁護士・青砥純子&防犯ショップ店長(実は泥棒?)・榎本径が活躍する短編集。表題作以外に「黒い牙」「盤端の迷宮」「犬のみぞ知るDog knows」の4篇を収録。作者がインタビューで語っていたが「知的遊戯としての」直球推理小説集だ。

独立した短編集であるが、主人公達の設定部分がかなり省かれているので「硝子のハンマー」を読まないと主人公達のキャラが掴みきれない。基本はトリックで勝負しているので、無理に読む必要はないが、それでもやはり前作を読んだほうがスムーズだ。

パターンとしては、死人が出て二人が推理するパターンの繰り返し。テーマ的には「狐火」は田舎の暗い家、「黒い牙」は蜘蛛、「盤端」は将棋、「犬のみぞ…」はアングラ演劇になっている。前半二つはホラー調の要素があるが、それ程怖くはない。

貴志祐介はかなりの寡作だが、その分一つひとつのクオリティが高い。以前紹介の「新世界より」もオリジナルティがある上に娯楽としても面白いかなりの力作だった。それに比べると本作品は、肩の力が抜けているというか、ワン・シチュエーションで勝負するミステリーというか、要するに作品に重さがない。読後、かなり拍子抜けしてしまった。

さらに、貴志祐介は人間そのものの怖さとサスペンスフルな展開が持ち味だが、この短編集は、軽妙さとトリックそのものが売り。これでは作者の長所とこの作品の作風が合っていない。決して読めないほど下らなくはないが、これぐらいの話なら別の作家でもいいと思えるレベルになってしまっている。「黒い牙」は設定自体は秀逸なのだが、この内容ならもっとドタバタコメディ化してもいいと思う。逆に「犬のみぞ知る」は無理に砕けすぎて、笑いどころの分からないコメディになってしまった。どこか狙いと効果がちぐはぐで空振り気味なのだ。

不満ばかり書いてしまったが、裏を返せば癖のない仕上がりになっているので、気軽な読書向きといえよう。読んだ後しばらくその世界から帰って来られない本ばかりでも苦しいし、ディティールはいつも通り緻密なので十分楽しい一冊である(タランチュラには本気で興味が湧いた)。ただ、作者の実力はこんなものではないはずだ。





狐火の家 [ 貴志祐介 ]




posted by 北川商店 at 12:21| ★★☆☆☆ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年02月20日

模倣犯(1-5) (宮部みゆき/新潮文庫)




・続婦女誘拐殺人事件がテーマのサスペンス小説

・事件が複数の視点で描かれる。非常にスリリングな展開

・気になる点ももちろんあるが、ページをめくる手が止まらない大傑作

おススメ度:★★★★★


「なんだこれは?」と、第1部の途中で思った。「これはヤバイ」とも。100Pを超えた途端、物語が物凄いスピードで加速し始め、一部ラストで放心した。決してグロテスクではないのに「ここまで書いていいのか」と、寒気を覚えるような描写。同時に読者を飽きさせず、まるで小刻みに爆発して加速していくような場面場面の面白さはエンターテイメントとしても最大級の面白さだ。しかし、ここまでなら以前紹介した「火車」と同様だ。第2部から、作者は未知の領域に驀進し始める気がする。

一冊ずつ個別に紹介したいと思っているが、今回は全体のあらましと感想を書いてみたい。

物語は、連続婦女誘拐殺人事件が、警察・被害者・犯人の側から群像的に描かれる。しかし、群像と言ってもそれぞれのパートで普通の本一冊分位はあるので、同じ物語が複数の視点で描かれていると言ったほうがいいかもしれない。とにかく、この物量にも圧倒される。

2部では犯人の生い立ちから犯行までが描かれる。正直、読み始めてみると一部に比べ(時間軸も戻るので)もどかしさを感じた。しかし、一部で感じた「読みたい気持ち」は簡単には止まらない。そして、徐々に練り上げられていくクライマックスはやはり圧巻だ。人間の光と影が鮮やかに描かれる。読み進めるのが勿体ないくらいスリリングな「対決」シーンがある。この辺の物語の<ため>と<放出>のコントロールが見事だ。

3部は完結編とも言える内容で、普通なら2部で終わっている話がさらに一回転する。そして明かされる模倣犯の意味。それは表面的な意味合いを越えて、この小説の真のテーマを語る。3部には展開的に物足りない部分もあるが、ページを繰る手が止まらないのは同じだ。

とにかく圧倒的なエンターテイメント小説でありながら、非常に深遠なテーマに深く切り込んでいる点で稀有な作品だと思う。いわく「悪」とは何か。純粋な「人間の悪意」とは何なのか。これは現代日本を覆っている言葉にできない「不幸」と同じ源を持つものと思えてならない。

作者は、「他者とは違うと思いたい英雄願望」だと述べていましたが、ヒトラーやポルポト、ジョン・レノンを射殺した男など、確かに人類を揺るがした悪の原動力とはこんなものかも知れない。ひょっとすると、私達は人と違うところではなく、同じ所を探すべきなのかも知れないとも思う。

最初の設定は重く感じるが、その先に底の見えない広大な世界が広がっている。軽い読書には向かないが、作者の筆力に身を任せて垣間見る人間の「邪悪」と「聖なる部分」は全ての人にとって何かしらの意味を持っている思う。手放しで勧められる大傑作なので、ぜひ読んで頂きたい。















模倣犯(1) [ 宮部みゆき ]



模倣犯(2) [ 宮部みゆき ]



模倣犯(3) [ 宮部みゆき ]



模倣犯(4) [ 宮部みゆき ]



模倣犯(5) [ 宮部みゆき ]





posted by 北川商店 at 11:17| ★★★★★ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする