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2017年02月16日

新興宗教オモイデ教 (大槻ケンヂ/角川文庫)  〜あらすじ、感想、軽いネタバレ



・人を発狂させる力をもった人間の暴走を描く

・青春の行き場のないエネルギーのマイナス方向への発散

・精神的なエロ・グロ要素満載

おススメ度:★★★☆☆


「筋肉少女帯」などミュージシャンとしても有名な大槻ケンヂ氏による、新興宗教をテーマにしたある種の超能力を扱った青春(?)小説。作者の趣味が多分に反映されていると思うが、昭和のエロ本に載っているような、エロ・グロ満載の狂気に満ちた小説だ。

あらすじはこんな感じ。主人公・八尾二郎は、同級生のなつみさんに恋心を寄せていた。しかし、なつみさんは、一か月後「新興宗教オモイデ教」の信者になってしまっていた。オモイデ教の秘儀は「メグマ祈呪術」と言って人を発狂させる力を持つ。オモイデ教の信者によって次々と「破壊」される人々。そして、主人公は「教祖」と対峙するのだが――。

「青春時代のやり場のないエネルギー」の発散の方法として、人を発狂させる力を手に入れたらどうなるか? というようなテーマを、ひたすらマイナス方向に描いている内容で、とても小中学生には勧められないような「毒」がある。一言でいえば俗悪だ。だが、無駄にエネルギッシュでインパクトのある内容なので、作者の感性に共感できるなら、恐らく高く評価できるだろう。

個人的にはラスト付近の雰囲気が最高だ。ここでのやり取りが一番酷くてエロティックな要素に満ちている。作者の作品は他に「グミ・チョコレート・パイン グミ編」しか読んでいないが、何かこう、読んではいけないものを読むような背徳感が味わえる。電子書籍版は227円と極めて良心的な価格なので、怖いもの見たさでぜひ、一読を。ただし、後悔しても保証はできないが……私は結構楽しめた。





新興宗教オモイデ教【電子書籍】[ 大槻 ケンヂ ]






posted by 北川商店 at 08:58| ★★★☆☆ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年02月15日

墓地を見おろす家 (小池真理子/角川文庫) 〜あらすじ、感想、軽いネタバレ



・訳ありマンションに引っ越してきた一家に襲い掛かる怪異

・直球型心霊系ホラー小説。怪しい雰囲気は楽しめる。

・余り整合性を重視していないので、オチ重視の方は注意。

おススメ度:★★☆☆☆


都心に位置する新築の2LDKのマンション。全戸南向き。清閑。買物交通至便。価格は破格の3500万。ただし、そこは「広大な墓地を見下ろす」ロケーション。そこに移り住んできた、加納一家。夫と妻と、幼い娘、そしてペットの小鳥と犬。小鳥の「ピヨコ」が死ぬところから、次々と不吉な出来事が起こり始める。もともと半分しかいなかったいなかった住人も次々と引っ越していき……。

という、実に面白そうな導入で始まる現代を舞台にした正真正銘の心霊系ホラー小説。じわじわと不幸が加速していく様子は、「リング」の鈴木光司氏の「仄暗い水の底から」のように、明らかに問題のある住居から「出て行くに出て行けない」事情で怪奇現象に巻き込まれていく。

しかしこれが結構設定が甘くて、突っ込もうと思えば突っ込める要素が満載だ。そもそも、誰が何の目的で襲ってくるのかがよく分からない。近く墓地の亡霊といえばそうなのだが、そういうことなら我が家の近くにも墓地はいっぱいあるが、隣の住人が次々死んだという話は聞かない。さらに、周囲の人間は簡単に死ぬのに、主人公一家だけ中々本格的に責めてこない。それがなぜかはよく分からない。一応、夫婦の間にも事情があるのだが、それも物語の装置として機能しているとは思えない。

そういう意味ではこれは完全な「雰囲気ホラー」で、例えれば遊園地のお化け屋敷に怖がる目的で入っていくようなものだ。オチに期待してはいけないし、整合性のある解決を望んでもいけない。そこに「霊」がいるのだから、そういうものだと思って楽しむのが正解だ。

その「雰囲気」は結構いい感じに描かれているので、心霊系ホラーが好きな方は、一度、手に取ってみてはどうかと思う。





墓地を見おろす家 [ 小池真理子 ]




posted by 北川商店 at 09:04| ★★☆☆☆ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年02月14日

この世界の片隅に 上・中・下(こうの史代/アクションコミックス)



・第2次世界大戦前後の広島の日常生活が緻密に描かれる

・主人公すずの天然で健気なキャラに癒される

・直接的な暴力もあるが、それとは違う「怖さ」がある

おススメ度:★★★★★


この作品の素晴らしさは各所で語りつくされている。私も遅ればせながら、映画と原作本を読んだので、紹介してみたいと思う。「怖い本」として紹介するということには、少々躊躇があるが、ある種の恐怖感を感じたので、その点について少しだけ感想を書いてみたい。

昭和9年か物語は始まり、主人公「すず」の幼年時代から少女時代、そして結婚生活を中心に、戦前・戦後の中でも今と変わらず「生活」という日々を真面目に暮らしていた様子が戦後直後まで描かれている。作風としては、空襲や原子爆弾の投下など戦争による直接的な破滅よりも、登場人物たちの欲や愛情、分かり合えない気持ちなど、基本的にはリアルな生活感が緻密にユーモラスに描かれている。作画も素晴らしく、主人公「すず」の可愛さが余すところなく描かれていると思う。コマ割りも工夫されていて、カルタ風に書かれたお話もあり、漫画的な技術も高いし、センスも独特だ。

しかし、この作品の持つ恐怖とは何か。もちろん、爆撃や原子爆弾による「死」の恐怖は明確だ。だが、直接的な暴力については、控えめにしか描かれていない。昭和の小学生の不朽のトラウマ漫画「はだしのゲン」のような凄惨な破壊や暴力描写に比べれば、はるかに少ない。が、それが逆に作品に絶妙の効果を与えている。

誰の言葉だったが「人生とは真っ暗な海を小さな船で航海しているもの。一つ船底を踏み貫けばどこまでも暗い海に沈んでいく」と聞いたことがある。主人公「すず」がどんなに優しく、思いやりがあり、必死に日常を生きても、不条理な「何か」が人生を破壊する。これは我々の生活も同じだ、病気が、事故が、怪我が、失業が、孤独が、今も足の下には渦を巻いて広がっている。その上を、小さな船で航海しているに過ぎない。

しかし、人間は一度沈んでも、また浮かび上がり、その苦しみを糧にして逞しく生きていくことができる。もちろん沈んだまま死んでしまうこともある。だが、この作品でも「すず」はまた立ち上がった。自分がどんなに苦しくてもまだ、できることはあるはずだ。少なくともそう思い続けたい。

世界では今も各地で戦争が起こっている。戦争は嫌いだ。私も子供のころ、祖母が畑で機銃掃射された話を聞かされた。ただでさえ不条理な世の中、何も積極的に「殺し合う」必要はないだろうが。それは物語だけでいい。

蛇足:映画版も素晴らしい出来だ。作画と声優が完璧。しかし、あるエピソードが意図的に削られているので、気になる方は漫画版もぜひ読んでみてもらいたい。逆に、エンドロールは映画版の方が好きだった。











この世界の片隅に(上) [ こうの史代 ]



この世界の片隅に(中) [ こうの史代 ]



この世界の片隅に(下) [ こうの史代 ]





posted by 北川商店 at 09:33| ★★★★★ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする