もともとseesaaブログで始めた「怖い本」ですが、独自ドメイン「http://scarybookplus.com/」に移行しました。最近、スマホの広告がウザいとの共同制作者の移行でこのサイトの更新はストップしていますので、ぜひ本サイトへ遊びに来てください。こちらで更新していた内容も本サイトで更新予定です。

2017年04月21日

献灯使(多和田葉子/講談社)



・読後感に何も残らない。

・ディストピア風だが、ちゃちな感じしかしない。

・なぜこんなものを著したのだろうか。

おススメ度:★★☆☆☆


(あらすじ)何らかの「災厄」に見舞われた後、鎖国状態の日本で、死を奪われた老人は不幸に暮らしている。やがて少年と出会い海外へ旅立つ運命に……(以上、きうら追記)。

2014年刊行。おそらく震災後の日本を舞台にしたと思われます。かの国は鎖国中であり、死ねない老人がいつまでも罪を背負うかのように、生き延びている。この設定はそれに苦しめということなのでしょうか。汚染された土地、外来語の使えない状況、などなどその他の設定自体は安直です。それでも話が面白ければいいのだが、まったく面白いところがない。文学だろうとなんらかの面白さがなければいけないと思うのですが。

現代日本の状況を寓話として批判的に書こうとしているのでしょうが、ありきたりな批評性のせいで、発想がうまく活かせていないような気がします。一体何を書こうとしているのかというと、おそらく風刺小説の類いでしょうが、ひねりがなくて安っぽくて味気ないものになっています。豆腐味のガムをひたすら噛んでいるような、そんな感じです(豆腐はおいしいですが)。

何故こんなものを書いたのでしょうか、もしかしたら私が読み取れてないものがあるのかもしれません。難しく考えずに素直にそのまま受け取ればいいのか。それとも根本的な問題として、多和田葉子の作風にこのようなテーマは合わないのでしょうか。どなたかにでも読み方を教えて貰えたら有難いのですが。

もし他人に「何か面白い本ないか?」と訊かれても、本書を薦めることはまずないでしょう。
(成城比丘太郎)





(楽天)






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2017年04月20日

三毛猫ホームズの推理(赤川次郎/角川文庫)〜あらすじと軽いネタバレ、感想



・気の弱い刑事と三毛猫が密室殺人に取り組む

・軽妙な文章、抜群の読みやすさ

・落ちは意外とヘビー

オススメ度:★★★★☆

最早、伝説となりつつある赤川次郎の最も著名なシリーズの第1作。初めて読んだのは中一のころ。世の中に推理小説というジャンルがあり、それが「けっこう面白い」ことを最初に私に教えてくれた一冊。しかしオチは重いぞ。

(あらすじ)血を見ると貧血を起こすダメ刑事・片山義太郎は、ある大学で売春グループの捜査を命じられる。しかし、事件は起こり、片山刑事は愛猫となるホームズと出会う。そして事件は更に複雑に展開していく。

当時、余りの軽妙な文章に世のブンダンの皆さんは著者を馬鹿にしたが、読者は馬鹿ではなかった。スラスラ読めて面白い「我輩は猫である」が存在するとしても、まさか推理小説に猫が探偵役で出てくるとは、という意外性。

再読して感じるのは読みやすい文体やプロットの裏で展開される余りに寂しい出会いと別れ。特にラスト、いつも片山を明るく支えるあの人の秘密。中学生にはちょっとヘビーな読後感だったろう。

だが、その毒気こそ、このシリーズを支える元となったのだ。甘いだけのお菓子なら食べたくはない。甘さの中の複雑な苦味。無知蒙昧な中一も、理解不能な感情、喜びと悲しみが同時にやってくる「あれ」を感じて、著者の「幽霊列車(Ama)」を買いに走るのであった……。

こんな重い話を軽く飲み込ませるとは、カルーアミルクの様な恐ろしい一冊。時代設定は古いが、ぜひその後で効いてくる「毒気」に触れてみてはどうだろう?
(きうら)





三毛猫ホームズの推理 [ 赤川次郎 ]




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2017年04月19日

ノヴァーリスの引用/滝 (奥泉光/創元推理文庫)  〜あらしじと軽いネタバレ



・全編濃密なくらさ。

・ミステリとサスペンス。

・文体はかためですが、すっと読める。

おススメ度:★★★★☆


『ノヴァーリスの引用』は、いわゆる「アンチミステリ」にも分類される、奥泉光の初期傑作。「死が絶対の終焉である〜」で始まる一文は、ハードボイルドものかと思わせます。夜、闇、影、そして死が常にこの作品を取り巻きます。ある人物の「死」を巡って展開される推理の行方は錯綜していきます。

恩師の葬儀を終えた4人の中年に差し掛かった男たちが、居酒屋で「死」について哲学的な会話を繰り広げるところから始まります。そこで4人は、若い時に死んだ、一人の研究会仲間に思い至ります。自殺したとされる男「石塚」ついて語り合います。殺人事件を疑い、彼らは過去を辿りながら、暗闇の中から埋没した記憶を掘り出していきます。しかし、その記憶はひどく曖昧で真相には至りません。この辺りは推理を弄ぶようなかんじです。

「石塚」の弾いていたリュート、ノヴァーリスからの引用、マルクス、マニ教やグノーシス主義などの小道具が散りばめられ、推理小説の体をとった、一種の思想小説とも読めます。後半で「私」が幻覚に襲われる辺りがクライマックス。ラストは、あっさりしてます。多少謎は残りつつも。

ある意味、中年になった男たちが、若さの象徴のような「石塚」を悼んでいるのかとも思います。男たちが在りし日の自分達を懐かしんでいる、ともいえます。中年になった人が読むと感慨深いものがあるかもしれません。

一方の『滝』では、とある教団に属する若者(少年)たちの「山岳清浄行」に起こる、サスペンスフルな顛末を描いています。全体に緊密な文体で、それとリンクするように登場人物の間にも異様な緊張感があります。大人の出てこない狭い共同体の中で、少年たちが濃密な関係を結びます。ある罠にかけられた少年たちが次第に衰弱してゆき、それに伴って周りの自然も悪意を帯びたように不穏な描写になっていきます。まるで彼らの内面のイメージが外化したしたかのように。最後の破滅へ向かう疾走感は凄い。まさしく傑作です。
(成城比丘太郎)


(編者注)私の知らない小説が次々飛び出してくるので、親友ながら著者の博識ぶりには感服せざるを得ない。時間が無限にあれば、どれも読んでみたい。むろん、そんな人間は存在しないのだが。




(楽天)




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