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2017年04月02日

死の棘(島尾敏雄/新潮文庫)



・壮大な夫婦の痴話喧嘩の詳細

・妻の狂いっぷりが凄い

・ひたすら繰り返される嫉妬の恐怖

おススメ度:★★★☆☆


この本もいつもの本屋の女性店員さんに推薦頂いた一冊だ。本の帯には「絶望的煉獄か 究極の夫婦愛か」とある。煉獄と言うのは天国と地獄の間のことで、要するに今生きている世界のことだろう。「いま、メディアで話題沸騰『狂うひと「死の棘」の妻・島尾ミホ』梯久久美子」とも書いてある。話題は沸騰しているかどうかは知らないが、これからの注目株だろう。ちなみに昭和56年発行なのでかなり古い本だ

(あらすじ)優しかった妻が作家である夫の浮気で大爆発。今でいう極度のヤンデレに変身し、日々、夫を責め続ける。ただ、それだけの話でミステリでもホラーでもサスペンスでもない。狂う妻、なだめる夫、怯える子供、この構図が延々繰り返される。

はっきり言って私小説的文学作品なので、軽い読書には向かないし、そもそもエンターテイメントを目指して書かれたものではない。しかし、妻のその「狂いっぷり」は一読の価値がある。性的・暴力的な描写はないが、とにかく「言葉攻め」で夫を苛む。夫は自殺を考えながらもひたすら宥める。このやり取りがホラーといえばサイコホラーっぽい。夫婦でやっている「ミザリー(Ama)」みたいなものだ。「夫婦喧嘩は犬も食わない」ということわざがあるが、ここまでやれば「食って」みてもいいのではないか?

思い出すのは、同じく文学者の壇一雄の「火宅の人 (上巻/Ama)」で、これも家族を顧みない文学者の家庭崩壊を描く狂気の長編小説だ。こんな作家ばかりではないだろうが、大なり小なり狂っているのが作家というもので、その妻はそうとう「しんどい」だろうなぁと同情する。井上ひさし氏もDVしてたとか、石川啄木は女狂いとか、まあ、一流になればなるほど変人率も高くなるのだろう。

他人と違うことを考えて文章にし、飯を食うのがプロの文学家だ。だから、そもそも世間と交わること自体、難しいことなのだ。詩を書いてる私の実感でもあるが「誰にも理解できないほど、俺は素晴らしい」と思う節がある。困ったものだ。飯を食う金があってこそ、文章も書けるのだが。

と、いうことで、「狂った妻」を読みたい方にはプッシュできる一冊。小中学生には向かない内容。生きるのはしんどい。




死の棘35刷改版 [ 島尾敏雄 ]






posted by 北川商店 at 07:38| ★★★☆☆ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする