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2017年04月13日

むずかしい愛(カルヴィーノ/岩波文庫)



・12のスナップ写真のやうな作品群。

・人生や人間関係の難しさを教えてくれる、生活の中に潜むちょっとしたおかしさ、かなしさ、こわさ。

・ホラー小説の要素はありません。

おススメ度:★★★★✩

二十世紀イタリアの作家イタロ・カルヴィーノによる短編集。内容は、12人の様々な人々が織りなす、小さな冒険や生活のちょっとした苦悩などからなります。

汽車で隣り合わせた女性に仕掛けた、恐ろしくてスリルあふれる男の行動をえがいた「ある兵士の冒険」。海水浴中にアクシデントにおそわれた女性が疑心暗鬼に陥る「ある海水浴客の冒険」。読書と女性を愛撫することを同時に行おうとして、人間関係の難しさが浮き彫りになる「ある読者の冒険」。なんてことのない日常にありそうな光景や人間関係を、登場人物が(再)発見していく物語などが、他にも書かれています。

私が好きなのは「ある旅行者の冒険」です。ここには怖い部分は全くありません。男が深夜の列車に乗り恋人に会いに行くだけの話ですが、次第にこの男は旅そのものを愛するようになります。暗いホームを離れ目的地へ向け列車が動き出す瞬間の、何とも言えない高揚感は、おそらく誰しも感じたことがあるでしょう。まだ見ぬ朝の光景を目指し時間を空間ごと旅する車内は、一時的な自室にもなるわけです。この男の胸中にあるのは、小さな戦いをおくりつつ、列車内で過ごすあの幸福なのです。ここで脳裏に浮かぶのは、プルーストの『失われた時を求めて』で「私」が保養地バルベックへ汽車で向かう、「私」の幸せな記憶の光景です。(さらに余談ですが『ドラえもん』の秘密道具で欲しかったものの一つに、自宅がそのまま寝台列車になるものがありました。)しかし、男の幸せな旅行のイメージも、目的地ローマでの新たな戦いのはじまりに追いやられるのです。

先にも書きましたが、この作品にはホラー的な要素はありません。ただ、「ある写真家の冒険」には次のような一節があります。〈深い記憶の底からやってきた存在が、はっきりそれと分かるほど迫ってきて、その直後、思いもかけない何かに変わる、何に変わるか予測不能であるがゆえに、まだ変身しないうちから不安にさせられるような何かに変わる、そんな夢のなかにいるようだった〉(P87)。ここに書かれているのは、夢というより、悪夢を見たときのような感覚があります。何かを捉えようとして、捉えきれないまま、次々と場面が変わってゆく感じが、厭な夢を見た後のようです。この作品のいくつかには、そんなもどかしい思いをする人たちの苦悩めいたものが書かれているように思います。

この作品を読んだ後は、何か自分の生活の見方がちょっと変わるかもしれません。怖さはないので、ホラー要素を求めている人には、だめかもしれませんが。

(成城比丘太郎)


(編者注)この本、すげぇ読みたい。しかし、時間がない。なぜ岩波文庫はKndleで読めないんだ。こんな面白そうな話、今すぐ読みたいなぁ。ちゃんとナイトランドを買った(笑)ので、先にそれを読もう。しかし、よく考えると、アフェリエイトサイトを作っておいて、そこから買わなかったのは失敗だ。未だ儲けは18円! いやいや、まだまだ続けますよ。昔から文士は志だけは高いのだ。
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むずかしい愛 [ イタロ・カルヴィーノ ]






posted by 北川商店 at 08:00| ★★★★☆ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする