・未来予知ができる青年が関わる短編連作
・落ちは読めるが面白い
・ただ、少々わきが甘い気もする
おススメ度:★★★✩✩
高野氏の著作は結構読んでいるが、失礼ながら当たり外れが激しい方で、外れると手に追えない甘すぎる作風になる。当たると最高のサスペンスかハートフルストーリーが出来上がる。では、この作品は? ちょうど中間あたりに位置する。もちろん、プロが書いたプロの作品だ。面白い。ただ、手放しでは褒められない。
(あらすじ)他人の未来が「ビジョン」として見える青年・圭史が狂言回し役となり6時間後に死ぬ女性と出会うところからストーリーが進行する。全部で6編の短編が収録されているが、そのどこかに圭史が何らかの役割を果たす。直接連関しているのは、最初と最後のストーリーだけだ。
読後感はなかなかいいし、サスペンス的な部分も、標準的な仕掛けだがよくできている。間に挟まるのは、ファンタジーであったり、女性の友情であったり、ホラーやサスペンスからやや距離を置いて描かれている。どうだろう、ネットで調べて★3.5くらいついているケーキ屋さんで評判のケーキを買ったら中々おいしかった、明日また行こうとは思わないが、機会があればまた食べたい、そんな感じで仕上がっている。
導入エピソードがいけないと思う。たしかに、キャッチーだが先が読めるし、高野氏の実力からすればもう一ひねりできるはずだ。これは職人が職人の仕事をしたことを確認しただけ。ただ、途中のダンサーの話はぐっと来た。こっち方面は求めていなかったが、むしろハートフルストーリーとしての出来映えがいい。
ラストも少々不満だ。後味はいいのだが、そこはもう一回物語を回転させないと「甘く」なりすぎてしまう。やや砂糖過多。ただ、軽い読書には最適だし、不遇な主人公たちに共感できればもっと楽しめる。
これも「本屋の店員さん」に薦めてもらった一冊。もう一冊、高野氏の「K・Nの悲劇」も買った。こちらは未読なので、また読了次第紹介したい。自分の知らない本をいつも快く薦めてくださる「店員さん」への感謝は絶えない。
全体的にはサスペンスといえるが、力を入れず、ゆったり楽しみたい一冊。あえて★3としたが、気分的には3.8ぐらいはあってもいいと思っている。
(きうら)
![]() 6時間後に君は死ぬ [ 高野和明 ] |

