もともとseesaaブログで始めた「怖い本」ですが、独自ドメイン「http://scarybookplus.com/」に移行しました。最近、スマホの広告がウザいとの共同制作者の移行でこのサイトの更新はストップしていますので、ぜひ本サイトへ遊びに来てください。こちらで更新していた内容も本サイトで更新予定です。

2017年04月22日

この世にたやすい仕事はない(津村記久子/日本経済新聞社)



・ありそうで、なさそうな5つのしごと。

・少しだけ、こわい部分あり。

・現在、仕事で多忙な人には向かないかも。

おススメ度:★★★★☆


本書は五つの章で構成される、長編小説といってもいいもの。タイトル通り、女性の主人公が《そんな仕事そうそうないやろ》と言いたくなるような仕事(パート)に、転々と就く話。前職に疲れ、楽な仕事を探し求めるまではいいのだが、なぜか都合よく紹介される仕事が少し変わっていて、興味深いです。(主人公に仕事を紹介する相談員や、彼女に関わる人々が、やけにやさしいのが、釈然としませんが)。

内容としてはまず「みはり」の仕事から始まり、読み出した最初は不思議な感じで、面白くなりそうだと期待が持てました。「バスのアナウンス」を考える仕事では、おそらく本作で一番の謎めいた出来事が起こり、少し怖さがあります。それは、言うならば『世にも奇妙な物語』のような怖さです。

その後二つの仕事を経て、最後の「森の小屋」での仕事(こんな仕事あったら私もやりたい)では、主人公が一見怪奇現象的な目に遭うのですが、種明かしはそれほど大したものではありません。とは言え、身の周りで同様の事が起こったらと考えると、現実的な怖さがあります。

5つの仕事を通じて、仕事に疲れていたはずの主人公は、かなり冷静な視線で客観的に人間関係を見ようとしている。それほど責任を負わなくてよいからでしょうか。楽な仕事というわけでもなさそうだか、彼女にはあっているからでしょうか。「しごと」を通じて、彼女の再生が果たされるラストは、少しうまくいきすぎのような気もします。

あくまで、これらは《ファンタジー》ということです。仕事とは単純労働と必ずしもイコールではなく、自らの創意工夫や着眼点の変化などによって、如何様にも捉えることができる。そのような仕事こそが、有意義な「しごと」だと、この作品は示しているのでしょうか。しかし、長時間労働や人間関係に悩むことの多いと思われる、日本の職場環境のことを考えると、やはりスッキリしませんが。まあ、現実にからめずに、気にせずに読んだら面白いです。(こんな仕事あったら、ほんまええなぁ)
(成城比丘太郎)


(編者注)椎名誠の盟友、目黒考二が「一日中、本を読む仕事をしたい」という動機で発行者(現在は退かれている)になったのが「本の雑誌407号2017年5月号(Ama)」。その辺の内情は、椎名誠氏の「もだえ苦しむ活字中毒者地獄の味噌蔵 (Ama)」を読むとよくわかる。私もそんな仕事がしたい。




(楽天)






posted by 北川商店 at 00:28| ★★★★☆ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

拷問の話(岡本綺堂/青空文庫)



・日本人の誇りを示す貴重な伝聞

・拷問とはサディズムにあらす

・読みやすい文。感じ入る結末

おススメ度:★★★★✩


(あらすじ)江戸時代、吉五郎という人間が窃盗の罪を犯した。しかし、彼は自白しない為、拷問に掛けられる。しかし、その時代の拷問とは、寧ろ拷問をする方が恥ずべき行為だった……。

「半七捕物帳」で著名な岡本綺堂の随筆の一編。タイトルは過激だが、内容は如何に日本人が「罪を憎んで人を憎まず」の人種であったかを示す美談だ。以下、著作権も切れたようなので引用する。

「わが国にかぎらず 、どこの国でも昔は非常に惨酷な責道具を用いたのであるが 、わが徳川時代になってからは 、拷問の種類は笞打 、石抱き 、海老責 、釣し責の四種にかぎられていた 。かの切支丹宗徒に対する特殊の拷問や刑罰は別問題として 、普通の罪人に対しては右の四種のほかにその例を聞かない 。しかも普通に行われたのは笞打と石抱きとの二種で 、他の海老責と釣し責とは容易に行わないことになっていた 。」

つまり、なるべく肉体的苦痛を与えずに罪人を裁くのが、捕り方の器量とされたのである。これは拷問の話としては全く百八十度逆の論旨であろう。何と誇り高いことか。しかし、罪人もどうせ死罪であれば、自らの誇りを守ろうと、その暴力による詰問に屈せず、周りの罪人も彼をヒーローとし、その器量を讃えるのだ。

もちろん、犯罪は犯罪だ。犯罪は憎もう。それは当たり前だ。だが、この随筆で描かれるのは人間の度量の話だ。責める方も責められる方も、プライドを賭けて戦うのだ。責める方は傷つけたく無い、傷つけられる方は力には屈服しない。真の男同士のやりとりだ。

翻って今の日本人はどうだろう? 罪を犯したものは保身を考え、罪を裁く者は冤罪と知っていても責め続ける。罪を犯してないかも知れない弱者を吊るし上げる。これこそ、今の日本のリアルな「恐怖」でなくて何であろうか。岡本綺堂の話がフィクションなのか? 今の日本人がフィクションなのか?

正義を語るつもりは毛頭無いが、誇りとは何かを学べる一編。大人の都合上、有料版にリンクを貼ったが、タイトルで検索すれば「青空文庫」で無料で誰でも読める。

金は無くなってもいい。健康を損なうのも仕方ない。人生は失敗の総体だ。だけど誇りを売り渡してどうする。それすら無いとすれば、己は、日本人は、いったい何者なのか?

獣、獣に違いない。
(きうら)

posted by 北川商店 at 00:12| ★★★★☆ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする