・「やっぱり生きた人間が一番怖い」をたっぷり楽しめる
・リアルな設定と抑えた文章
・スリリングな展開で抜群の没入感
おススメ度:★★★★☆
保険会社に支払査定主任として勤める主人公とその顧客である不気味な登場人物との関りが、現実感たっぷりに描かれる貴志裕介氏の傑作ホラー。作品世界への吸引力も強烈で、読み進むにつれまるでグイグイ引き込まれていく。「ホラー小説」って面白い、と素直に言える一冊である。
著者の体験に基づく保険会社の裏側も非常に興味深く、普段知ることのない世界が体験できる。いかにも「ありそう」なクレームや狂ったお客に、自分は「保険会社に勤めなくてよかった」と、つくづく思う。作中に登場する「取り立て屋」もその背景に広がる黒い社会を想像させて楽しい。そして、その危ない世界を安全な場所から体験できるという、ある種の優越感。
ところが、作品を読み終わると自分もまたこの「黒い家」のある世界に住んでいるということを実感させられる。身近なところにもこの手の憎悪や醜い欲望はあるのではないか、いや、本当は自分の中にもあるのではないか、と感じさせられるのが本当に怖い。
ただ、作品が発表されたのが1997年であり、どうしても作中の社会の描写が古く感じるだろう。とくに若い読者の方にはピンとこない描写も多いのではないかと思う。ただ、それを差し引いても面白いお話であることは変わらない。怖い話は読みたいけど、幽霊や超自然的な存在が苦手な方にも最適な作品。