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2017年10月02日

今夜、すベてのバーで(中島らも/講談社文庫) 〜読書メモ(7)



・中島らもの自伝的アルコール依存症の経験譚

・アルコール依存を経て亡くなった著者

・最強のドラックとしてのアルコール

おススメ度:★★★★☆


読書メモとしては、私「きうら」は初参戦となる。上記の作品について感想を書いてみたい。

中島らもは才能豊かな文筆家であった。同時に劇団の主催者であり、優れたエンターテイナーであり、エッセイストでもあった。しかし、アルコールに極端に依存する傾向があり、その死因は泥酔の末、階段からの転落による、と、伝えられている。

事実は知らない。しかし、中島らもがアルコールをこよなく愛していたのは間違いない。それはこの本を読んでみれば良く分かる。これは、中島らも自身のあるアルコール依存症(当時はアルコール中毒といった)の経験を元にした、非常に興味深い自伝的小説である。アルコールに限らず、ドラックについて書かれた愉快な読み物「アマニタ・パンセリナ」もご参照頂きたい。

日本のアルコール飲酒人口は6,000万人、その内、依存症は230万人と言われている(Wikipediaより)。人口の56人の一人がアルコール依存症ということになる。成人に限ればもっと多い。

日本ほど、アルコールの害が野放しにされている先進国も少ないという。それは、ゴールデンタイムのCMなどを見ていれば良く分かる。どれだけ、ビールなどの酒類のCMが多いことか。日本には元々「酒は百薬の長」という言葉がある通り、酒に関しては寛容な社会だ。それにしても、だ。私は喫煙者ではないが、目の敵にされているタバコの害と比べても、アルコールは、総数的には健康に与える国民へのダメージは今はずっと大きいだろう。

と、いう記事をビールを飲みながら書いている私もまた、依存症予備軍だ。中島らもは、肝臓の限界をプールいっぱいのアルコールと例えていたが、対アルコールフィルターである肝臓は、どこかでその役割を終える。アルコールを一杯飲むたび、このフィルターの寿命を消費しているのは事実だろう。それが壊れれば人工透析という苦しい治療を経て、やがて普通より早く「死ぬ」。

普段、ホラー小説の怖さについて述べているが、実は、アルコールはそれ以上に恐ろしいものだと思う。統計を取ってみればいい。幽霊にとりつかれて死ぬ人間と、アルコールの害によって死ぬ人間がどちらが多いかを。アルコールがなくなったら、どれだけの人間が命を失わずに済むかを。

ところが、酒は文化や経済と深いつながりがあるので、決して、テレビやメディアでその害が日常的に喧伝されることはない。目の前の缶には「飲酒は20歳になってから。未成年者の飲酒は法律で禁じられています。妊娠中や授乳期は胎児・乳児の発育に悪影響を与えるおそれがあります」と、書いてある。

随分控えめだな、と思う。「アルコールの過剰摂取は、個人差はありますが、確実に健康に害があります。短時間に大量に摂取すると死亡します」とは、書かれていない。こう書くと、水でも醤油でも同じだが、水や醤油を一気に一升飲む馬鹿はそれほど多くないだろう。ただ、アルコール依存症の人間は230万人もいるのだ。

アルコールによって促進されるコミュニケーション、というのも無視できない。禁酒法ができたアメリカがどうなったかはご存知の通りだ。相当数の人間が酒工場で働いているし、飲んで旨いのも間違いない。しかも、適量を守れば、それほど害はないのだ。この無視できない程大きい「プラスの効果」が、現在の日本の状況を招いているのは間違いない。

人間は弱いものだ。辛いことがあった時、疲れた時、楽しい気分を高めたい時、それを効率的に促進してくれる美味しい魔法の液体が数百円で手に入ったら、どれだけの人が手を伸ばさずにいられるだろう。しかも、それは「合法」であり、何ら非難される事ではない。あまつさえ、「酒が飲めない」のは、限定的なコミュニティでは、嘲りの対象にすらなる。しかも、ほとんどの人間は飲んでも死なない。正に魔法の水だ。百薬の長というのも頷ける。

そして、私はもう一本の500mlのビールの缶を開ける。さらなる鈍麻を期待して。

Wikipediaには「日本においては、飲酒による死亡者は34,988人(2008年)で、総死亡の3.1%を占めており、その社会的費用は4兆1483億円と推定されている(2008年)」と書かれている。もちろん、それが本当かどうかは知らない。でもまあ、我々アルコール愛好家も「健康に害がある」ということは認めねばならないのではないか。私はウイスキーやビールが大好きな作家・椎名誠も大好きだ。酒がないと、生まれなかった作品も多いのかも知れない。

さて、結論としては簡単だ。「アルコールは個人差はあるが、摂取すると健康に害がある」、日常的に摂取し続けると「依存症」になるリスクがある。「依存症」になると、健康面・社会的に破綻する可能性が高い。毎年、何万人単位でアルコールが原因で日本人が死んでいる。一方、酒によって経済はうるおい、人々は安らぎを得ている。法律的に20歳以上の飲酒は違法ではない。飲んだら旨い。メディアは盛んにアルコールの美点を強調する。それに異を唱えるTVも少ない。スポンサーには逆らえない。そりゃそうだ。

私の想像は飛躍する。理想の社会とは一体何か? 酒が無くなったら、素晴らしい社会が生まれるのか? そうは思わない。ただ、実害の割にアルコールの害は過小評価され過ぎだ。もっとアルコールの害については議論されるべきだとは思う。私が言えた義理ではないが。

善悪二元論では語れない典型的な事例だろう。余りに日本文化に深く結合しすぎている。私は思う。「飲酒は控えめに」。

ここは盛大に笑うところ。数百円で手に入る、すぐには死なない美味しい毒が、手軽に手に入る環境で、誰もがそれを飲まずにいられるか。酒に依って(酔って)成功している人も多い。

最後にWikipediaより、中島らもの最期を引用する。

2004年7月15日[2]、神戸市内でおこなわれた三上寛、あふりらんぽのライブに飛び入り参加。終演後に三上寛と酒を酌み交わし別れた後、翌16日未明に飲食店の階段から転落して全身と頭部を強打。脳挫傷による外傷性脳内血腫のため神戸市内の病院に入院、15時間に及ぶ手術を行うも、脳への重篤なダメージにより深刻な状態が続き、自発呼吸さえ出来ない状態に陥る。
入院時から意識が戻ることはなく、事前の本人の希望[57][58]に基づき、人工呼吸器を停止。同月26日[2]午前8時16分に死去。享年52。

もっと、中島らもの小説を読みたかったな、と、そう思う。
(きうら)









posted by 北川商店 at 18:00| 読書メモ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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