・ホラー要素のある完全なSF
・ジュブナイル向けの作風
・オチに既知感があるが発表年から考えると妥当
おススメ度:★★☆☆☆
日常生活が何ものかに侵食されていく……という内容の表紙裏の紹介文に惹かれて購入したが、中身は完全なSF作品。宇宙船のエンジニアに憧れる少女が、崩壊していく世界の謎を探る。ホラー要素もあるのだが、一般的なホラーではなく、どちらかというとモンスター物に近い。
想定されている対象年齢は完全な大人というより、中高生ぐらいがではないかと思う。近い雰囲気だと思ったのが、萩尾望都的な漫画のSF世界(11人いる! (小学館文庫)
など)だ。ちょっとテンション高めの会話劇はいかにもである。
目次を見ると一目瞭然だが、途中で話の軸が大きく変わる。ここが一つの大きな山場である。このオチが某有名映画と同じなので、これはSF的には非常にオーソドックス(になってしまった)パターンなのかもしれない。当時の年代で読めば衝撃的だったのかもしれないが、何分30年以上前のSFである。「このパターンなのか」というのが正直な感想だ。
途中の山場までは、幻想的な要素も含め少々退屈だった。作者がやりたいことは分かっているので、「その先」が気になるのであまり集中できない。一方、「その後」は漫画的な内容も含め脱力するのだが、一方でそこそこ楽しめないこともない。書かれた時代はコンピューターが未発達な状態だが、設定がそれ程科学的に精密でないのが幸いして、逆に古くなっていない。
余談だが、角川ホラー文庫で出版されている作品は玉石混交過で「黒い家」や「ぼっけえきょうてえ」のような作品があるかと思うと「呪怨」があったりして、作品の質に大きな開きがある。この作品も、ホラーというには少々苦しいが、年代も考慮すれば、まずまずの作品という所ではないか。

